moonfishwater28’s diary

気がつくとわたしの心から音楽が奪われていた。取り返そうとするけれど、思い出すのは昔のレコードばかり・・・今はもう手元に無いレコードたちを思い出しながら記憶の隅に眠る音、内側を作る本の言葉を集めたい。

読書

車輪の下  ヘルマン・ヘッセ著

この本の内容を心に収めようとすれば、必然的にヘルマン・ヘッセの生涯について読んだり調べたりせずにはいられない。主人公ハンス・ギーベンラードの「救いようのなさ」というのはそれほどのものである。 わからない宗教的背景もあちこちにある。優秀な子供…

いい猫だね   岩合光昭著

猫のことはしょっ中思い出している。「楽しかったなあ」と思う。新聞広告で見て連絡し、まったく知らない人から譲り受けたキジ猫♂二匹。 この本を読み、家の猫もそういえば・・・と照らし合わせて考えたりもする。あんまり長生きはしなかったけれど充分楽し…

夜中の薔薇   向田邦子著

印象に残ったところは大方、向田家に伝わる小さな簡単な、けれども昔懐かしいお惣菜の数々と、それらの背景である。鰹節は、「硬い石」みたいな塊で、毎朝、タオルに包んでご飯が炊けるときの蒸気で蒸らして削りやすくしたと言う。丹念に火であぶった海苔と…

百歳の美しい脳   デビッド・スノウドン

デビッド・スノウドンが疫学研究者になったのは「ニワトリ」が原因だという。思春期に、「体操選手」になることをふいにあきらめた彼は、放課後の時間を「ニワトリの飼育」にあてがう。裏庭に小屋を作り、品評会に出して賞を貰ったり、卵を売ることで小遣い…

90歳何がめでたい  佐藤愛子著

佐藤愛子から遠ざかって40年ほど経つだろうか。高校時代、文芸クラブの顧問にこう聞かれた。「今、何読んでる?」わたしは即座にこう答えた。「佐藤愛子!」顧問曰く「アホ!純文学読め!純文学!」~「はー、そういうものか」と思い、純文学を読もうとす…

草の花   幸田文著

「なにもかもが、いけないことだらけでだめだった」で、はじまる幸田文女学校時代のエピソード満載の随筆。ここで、幸田文は第一志望のお茶の水女学校を受験し、失敗するのであるが、それが、そばに居たらさぞはらはらするだろう、ということだらけだ。 生母…

ハンナ・アーレント全体主義の起原    NHKテキスト100分で名著

思うだけで「気が滅入ってしまう」ような集まりに出席しなければならないとき、ハンナ・アーレントの言葉を思い出す。複数性という言葉を。悪とはどういうものか?と考えざるを得ない、しかし、はっきりと言葉でもイメージでも表現できない。そんなときに書…

子どものためのコルチャック先生    井上文勝著

第二次大戦下、ナチズムが猛威をふるっていた時代、孤児たちのための施設を作り、子どもの権利条約を制定。子どもの存在をしっかり受け止め、けして逃げなかったポーランド人~ヤヌシュ・コルチャック。 子どもの悲しみを尊重しなさい。たとえそれが失ったお…

ベル・ジャー   シルビア・プラス著

正気と狂気のはざまで、主人公のエスターは、どうやって生きてゆこうとしているのか。「ベル・ジャー」とは、クッキーなんかを入れる蓋のついたガラス瓶のこと。エスターはいつも、この「ベル・ジャー」の中で生きている気がしている。自分の吐く息で、自分…

ボブという名のストリートキャット

猫が人間を救う物語が絶対あるはずだと検索して行き当たり、読んだ本です。ストリートミュージシャン、ジェームズ・ボーエン氏が猫の友達を得て立ち直ってゆくさまを描いている。ジェームズ氏の良い所はどんな時でも、素直で正直なところ。かっこ悪いところ…

おとうと       幸田文著

露伴が可愛がって育てた長男が、実母との死に別れののちに入った「まま母」とうまく行かなくなってゆく。きっかけは高校進学してからの級友とのトラブルだった。きちんと経緯を聞かず、そのまま警察送りになってしまう。このあたりは、姉のげんは(作中の名前…

大沼はまの日本語教室      大沼はま著

大沼はまさんに一度も会ったことはない。それなのに、やさしくそおっと諭されているような気持ちになる。人をけして「裁いてこない」人。むかしむかしに私にもこんなお母さんが居たはずだったというような匂いがする大切な本。大村さんの一族に流れる「大切…

ゾーヴァの箱舟      ミヒャエル・ゾーヴァ著

ドイツの画家ミヒャエル・ゾーヴァの画集。ゾーヴァのユーモアたっぷりの動物の絵が、楽しめます。クマを連れて歩く少女の後姿とか、スープ皿に飛び込んだ豚とか、家出するあひるなんかが描かれています。ゾーヴァはこういう絵を好んで描きます。クスッと笑…

ステラおばさんのアメリカンカントリーのお菓子     ジョセフ・リーダンクル著

ストロベリーパイやブルーベリーマフィンなど、この料理本片手に奮闘していたことがあります。アーミッシュの人々の暮らしを写した写真も数多く見られ、ページの下のほうには、いろいろなことわざが、和訳付きで載せられています。 These are only two lasti…

豆腐屋の四季      松下竜一著

ノンフィクション作家になる以前の松下竜一。一番最初の頃のことが記してある。 泥のごとできそこないし豆腐投げ怒れる夜のまだ明けざらん 松下竜一のこの時期の怒りに満ちた歌が好きだと思う。荒れ狂っていたのだ。怒り疲れると涙ぐんでまだ開けぬ星空を仰…

わかりあえないことから        平田オリザ著

劇作家である平田オリザが、国語教育に携わることになり、教師、生徒、家庭、企業、ひらたく言うとこの日本に広がるダブルバインド~この中途半端さ、この宙吊りにされた気持ち、ダブルバインドから来る「自分が自分でない感覚」と向き合わなければならない…

みそっかす      幸田文著

なんだかこの本は辛い本だった。前作まで、ただ単に、文さんは若草物語のジョーのような存在だと思い込んでいたのだ。しかしそれは、まったく違った。幼くして生母を失くした文さんのもとに、二番目のははがやってくる。そうしてそれから、辛い日々が始まる…

ルイザ若草物語を生きたひと

ルイザ・メイ・オルコットの波乱万丈な人生を振り返る。若草物語もそうなのだが、この家族に流れる一筋のなにか「不屈の精神性」・・たぶん、プロテスタンティズムに魅かれる。お母さんのアッバもお父さんのブロンソンもお互いに信仰を介して尊重しあうとい…

父・こんなこと     幸田文著

なんの予備知識も無くこの本を手に取ったのは、ただタイトルに惹かれたからで、綴りたいと思わざるを得ない「父親」その人との関係~それがほかの人の場合はどんなだったのだろうという興味が沸いたこともある。父(幸田露伴)の臨終を看取り、それまでの「父…

やさしさをください   大塚敦子著

4年ほど前に愛猫を亡くし、その哀しみが思いがけず深かった。かつて私の実家にはたくさんのペットが居た。鳥類、金魚の類、りすなどの小動物、亀が居たこともある。昆虫もさまざま入れ替わりたちかわり、なんやかや居たものだ。それなのに、動物が死んで悲…

ジャック・デロシュの日記~隠されたホロコースト      ジャン・モラ

心の琴線に触れる、という言い方をすれば、この本を読んだ後の衝撃がそれである。図書館の児童書の棚にあり、小中学生が誰でも手に取って読むことが出来る。感受性の強いこの時期に一度この本を読み、また大人になって読み返すのも良いかもしれない。 「わた…

須賀敦子全集1~2     

須賀敦子に出会ったのは7年前の冬のことだった。ホテルの一室で、大画面のテレビに映し出されたイタリアの風景。その時まで、「アッシジのフランチェスコ」も「聖人キアーラ」も「夕暮れには薔薇色に染まるイタリアの煉瓦の路」も「霧の中にそびえるドゥオ…

家霊      岡本かの子

幾つかの短編が収められている。この本に入っていない短編「川」が、実はすごく好きなのだが、ネットで検索すると「岡本かの子の川は、意味がわからない」という書き込みが多く、それはねえ・・・と説明しようとして、説明できない自分に気づく。「いえ、あ…

文盲     アゴタ・クリストフ

ハンガリー人。20代にスイスに亡命。単調な生活の中で小説を~文章をひたすら執拗に書き進めてゆく。その語り口は、ある意味ぶっきらぼうとも言えるような文体であり、読んでいく内に、砂漠の中で迷ってしまったかのような、乾いた気持ちになる。なんだ!…