moonfishwater28’s diary

気がつくとわたしの心から音楽が奪われていた。取り返そうとするけれど、思い出すのは昔のレコードばかり・・・今はもう手元に無いレコードたちを思い出しながら記憶の隅に眠る音、内側を作る本の言葉を集めたい。

ベル・ジャー   シルビア・プラス著

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正気と狂気のはざまで、主人公のエスターは、どうやって生きてゆこうとしているのか。「ベル・ジャー」とは、クッキーなんかを入れる蓋のついたガラス瓶のこと。エスターはいつも、この「ベル・ジャー」の中で生きている気がしている。自分の吐く息で、自分自身、息が詰まっていくような・・・19歳の心情。シルビア・プラスの自伝的小説、と言う風に読んでみれば、8歳の頃から詩や文章を書く才能があり、数々の賞を採っている~というドキュメンタリーの部分は書かれていないことになるが、ここに母親が期待の多くを娘に賭けてしまった、という見方は出来ないだろうか。

成績でAを採り続け、趣味らしい趣味はなく、ただひたすら「母親の期待」に応える人生を歩んできたエスターには、「自分自身」というものが形成されていなかったのだろう。

たとえば、「日常を生きる」ということを、知らない。そのことが地獄であり不幸なのだ。

夏期講座で、ある作家の指導を受けられるということで、申し込んだ彼女の作品が選考に落ちてしまう。エスターには絶対的な自信があったのにも関らず。

そして、がたがたと坂道をころがりおちてゆくのである・・・・

狂気の中に埋没してしまったかのように思われたとき、彼女は「自分らしく生きてゆく」方法の一端を手に入れる。しかし、ラストシーン近くのエスターは、やはり痛ましく感じる。

彼女は完全な自由を手にした。付きまとわれていた同性愛者のジョーンは自殺してしまい、気に入らないボーイフレンドのバデイはあきらめ顔で突き放してくる。病院からは、当分母親と暮らさないようにと通達されている・・・・そして、男性不信を乗り越える為に避妊具まで装着し、行動する。

しかし、エスターは、あまりにも傷つきすぎている。

 

1963年、二人の幼い子どもを残して自殺したシルビア・プラス。この小説は自殺直前に出版されている。ゲラがあがったとき、彼女は大笑いしてこの原稿を破り捨てたと言われる。

 

シルビア・プラスもエスターもただの一度も「自分の感情」というものを味わったことがなかったのだろうか。プラスの詩も興味深い。いつか読んでみたい。