ウンベルト・サバ詩集 みすず書房 須賀敦子訳
カッフェラッテ
つらいと
おもう。そうなってほしい
とおもうだけ、おもうように
なってくれない。
もうすこしだけ、いとしい
少女よ、
ぐっすり眠りたい、彼女はおもう。
すこしだけ
目をあいたまま、夢みていたいと。
やがて、しずかに、揺り籠に
身をささげた、
老いた
召使が入ってきて、
待ちこがれた飲みものを
さしだして、くれたら。
ミルクはアルプスのミントの香り、
黒い
カッフェは海の彼方の薫り。だが、
寝床のそばにいるのは、彼女の母親、
むっつりとさしだす
家庭用ブレンド。
ほんとうなら、ゆっくりと
起きて、
生活が、聞きとれぬほどの囁きみたいに
しか入らない
部屋がほしいのだけれど。彼女を待っているのは、
ふんわりとしたアームチエアと本が一冊。
それから、おしゃべりでない
考えがひとつ。
それなのに、いつもの
うるささで、
母親の声がせきたてる、
お仕置きみたいに
おそろしい、一年まえから、
白いのは白いシーツだけではなくて。
カッフェラッテでないのを、
ぐっと飲む。
つらい気持で、
起きる。だが、ゆっくりと
戻ってくる
幸福の想い。
詩集は、声を出して読んでみると、空気に色がつくように声と言葉が一緒になって、別の景色が見えてくることがあります。この詩集も、心の中で読んでいるだけではわからない何かが、空気に触れた途端に動き始めます。