moonfishwater28’s diary

気がつくとわたしの心から音楽が奪われていた。取り返そうとするけれど、思い出すのは昔のレコードばかり・・・今はもう手元に無いレコードたちを思い出しながら記憶の隅に眠る音、内側を作る本の言葉を集めたい。

ウィ・ラ・モラ 田中千恵著

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突然、大自然の中に著者と一緒に放り出された気分になる。「これが当然」のことなのか?と我が身を疑う。まず、世界地図を持ってこなければ。カナダの先住民族とは何なのか。著者はどの辺りをどんな風にキャンプしてたのか。島や海洋の名前もおぼろげだし、ましてやシャーマンの儀式など思いつく術もない。だが、随所に見られる美しい写真の数々、しっかりした文章から察するに、著者は本物の女性の探検家らしい。

忘れられないひとつのエピソードは、「熊の道」という章から。

2000年の夏から秋にかけて、北極圏を流れるマッケンジー河畔の森でデネ族の老夫婦と川魚を捕って暮らしていた著者は、あるとき、毎日続く魚の食事にあきあきして「熊の肉が食べたい!」とつぶやいた。「熊は人間の言葉がわかるから、からかったようなことはいわないほうがいいよ」とたしなめられた著者は、その後、本当に熊からその痛手を食らうことになる。

黄色いナイロンロープで作った簡単な罠と一匹丸ごとの魚を木の枝にひっかけただけの餌で、熊取りを試みるも、3日間見張ったあと、餌と罠だけが忽然と消えうせる。「熊は最初からかかっていなかった」と思った著者と、「かかっているから探す」という知人の先住民とで、森中、熊を捜し歩くも、見つからない。あきらめ果てた頃、2週間も経って、裏山の森深くに、ロープを首に巻きつけた熊が発見される。時間が経っており、半ば、小動物に食べられたり、異臭も放ってもいて、もはや食べるどころではない。しかし、先住民は、その身体をばらばらに裂き、森の方々に置いてきなさいと命ずるのである。片方の熊の足を持ち、ふらふらと森の奥地に行き置いてくる・・・その次にはもう片方の足、あばら・・・どんどんと森の深くへ入るうちに、最後には熊の頭をひと抱えにして、これは夢なのか、現実なのか、と問うしかないほど朦朧としてくる。夢のほうがまだ現実味がある、と思う著者の気持ちとわたしには依然として隔たりがあった。

先住民が、森へ還した熊の死体なんて本当だろうか、と読者のわたしの思う先に、モノクロの熊の頭の写真がぬっと現れるのだ。

オオカミ、ハクトウ鷲、シャチ、フクロウ・・自然界とともに生きているカナダの先住民族は、少しも不自然なところなんか無く、実はわたしが「不自然な」だけなのかもしれない。