ジャック・デロシュの日記~隠されたホロコースト ジャン・モラ
心の琴線に触れる、という言い方をすれば、この本を読んだ後の衝撃がそれである。図書館の児童書の棚にあり、小中学生が誰でも手に取って読むことが出来る。感受性の強いこの時期に一度この本を読み、また大人になって読み返すのも良いかもしれない。
「わたし」~エマは、16歳の女の子で、ダイエットを繰り返している。~愛する祖父母の中に自分の両親に欠けているものを見つけ、自身の支えとしているが、ある日、祖母が夢でうなされている最中につぶやいた言葉に惹きつけられ、拒食症に蝕まれてゆく・・・祖母が亡くなり、遺品の中から「ジャック・デロシュの日記」を見つけたエマは、その本を隠し持って読み始める・・・
「嘘に塗り固められた人生」、「嘘を土台にして」作り上げられた人生。そういうものの代償は、人の生を破壊する、と心理学者のアリス・ミラーが著書の中で書いているが、それはその人自身でなければその子どもの生だと言う。エマは正面からこの「嘘」に向き合う。
ホロコーストは、日本には係わり合いのない歴史上の出来事なのだろうか。そういう理由にはいかない、と誰もが気づかされる。そして正面から向かい会いきれない「泣き寝入り」の土壌が、日本には根深くあるのではないかと考えさせられる。
エマのような態度を誰もがとれる訳ではないし、このように病理を本人がしっかり手の中に収められるためには、幾人かの「誠実な大人の存在」が不可欠である。嘘には「抵抗するべきだ」という本質。なによりも尊い自分という人格を守るために。この場合、命そのものにまで影響が及んで居るわけなので、事態は深刻である。同じような事例がアリス・ミラーの著書に出てくる。けして絵空事ではないのだ。
この本は海外の文学賞を14も受賞している。